本編

王国裁判
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……なんで、こんなことになってるんだ?

クロノは一人自問自答していた。

…まあ、俺は悪くないし、大丈夫だろう。大臣も間違いだって気付いてくれるといいんだけど…。

「さあ、裁判が始まる。証言台に行け」

クロノは反抗せずに沢山の傍聴人が見つめる証言台についた。

「…ようこそ皆さん」

大臣の含みのある声が響いた。

「今、ここに居るのがマールディア王女誘拐の罪で疑われているクロノという男です。…私が検事の大臣。向こうに座っておられるのは弁護士のピエールです」

さて、と大臣が大きく咳払いをした。

「この男をどうしましょう…火あぶり?くすぐりの刑?逆さづり?…それとも…ギロチンで首を…」

いや、待て、冗談じゃない。

と言うか、聞いてない。

嫌な汗が体中から吹きだす。

「それを決めるのは皆さんです。さ、始めましょう。…では被告人クロノ!証言台につきなさい!」

ずっと座っていた弁護士のピエールがいきなり立ち上がった。

「…まずは、私からいきましょう。クロノに本当に誘拐の意思があったのか?…いや無い。…検事側は被告が計画的に王女を攫ったといいますがそうでしょうか?…いや違う。二人は偶然出会ったのであって決して故意ではありません」

よく分かってるなあこの人。流石弁護士。

俺が言うより何倍も効果あるよ…。

ちら、と大臣をみると、大臣がむう…と声を漏らした。

「はたしてそうでしょうか?どちらがきっかけを作りましたか?」

大臣がクロノの顔を覗き込む。

ここで初めて質問が飛んできた。

ぶつかってきたのはマールだけど、俺も注意力散漫だったし…。

でもきっかけは…マールかな。

なんとなく、大臣の雰囲気から明確に答えなきゃいけないような気がした。

「…どちらかといえば、マール…ディア王女です」

マール、と言いそうになって慌てて付け足す。

すると大臣が口の端をゆがめて笑った。

「本当にそう言い切れますか?貴方からぶつかったという目撃者が居るのです」

…まあ、見ようによってはそう見えるかも…なあ。

でもそんなにあからさまじゃなかったと思うんだけど…。

さらに大臣は続ける。

「そして二人は発明ショーに足を運んだ…。その姿は何人もの人が目撃しています。そして二人は姿を消した…。これが誘拐と言わずしてなんと言うのでしょう?」

「いや、ちょっ…!違うって…!」

「被告は質問に答えたら口を閉じなさい!」

裁判長の叱責が飛んだ。

大臣がクロノから離れる。

「被告の人間性が疑われる事実も私はいくつか掴んでいます」

「異議あり!…それは今回の件に関係あるのでしょうか?…いや無い」

「関係あるのかね?大臣」

裁判長が厳かに尋ねる。

「はい、証言の正しさを示すために被告の人間性を知らせておく必用があります」

「…いいでしょう」

ピエールが挑むように前に出る。

「問題は動機です。この一市民にマールディア王女を誘拐しる動機がどこにありましょう?…いや無い」

ピエールに反論するかのように大臣がクロノに目を向ける。

「お言葉を返すようで悪いが財産目当というのはどうかな、クロノ君?王女の財産に目がくらんだのでは?」

裁判長に注意されてから身じろぎもしないクロノに大臣が疑わしそうに問いかける。

「そんなことありませんって…」

「本当に財産には興味ないのかね?」

「はい、全く」

きっぱりと答えたクロノに大臣が小さく小さく舌打ちをした。

「ま、いいでしょう。私の尋問は終わります」

「見ての通り正義感の強い少年です。さあ裁判長、判決を」

ピエールが自信ありげに判決を求める。

「…陪審員達よ、有罪だと思う者は左、無罪だと思う者は右に行きなさい!」

ぞろぞろと陪審員達が整列する。

クロノはあまり信じたことの無い神々に向かって必死で祈りを捧げた。

…神様仏様。…もう誰でもいいから俺を無罪にしてください…!

陪審員達が一人ずつ前に出て移動を始めた。

…右、右、右、右、右、右、左!

うおっしゃあ、圧倒的俺の勝ち!

傍聴席に座ってる人のブーイングが聞こえたような気がするが、まあどうだっていい。

「静粛に、静粛に!!」

裁判長があの、なんか…ハンマー?的なものを振り下ろしている。

「判決が出た!……無罪とする!!!」

大臣が悔しげに呻き、ピエールが勝ち誇ったように大臣を見る。

…有難う弁護士さん。

おかげで家に帰れそうです。

浮かれているクロノの耳に裁判長の重い声が響いた。

「…しかしだ。誘拐の意思は無かったにせよ、マールディア王女をしばらく連れ出したのは事実。…よって反省を促すため三日間の独房入りを命ず!!」

…マジですか。…まぁ、三日くらいなら…仕方ないか…。

「さ、連れて行け!」

なぜかいきなり元気を取り戻した大臣が声高々に叫ぶ。

先程の控えていた兵士がクロノの腕を掴んだ。

「待って!」

その時マールが怖い顔をして裁判所に入ってきた。

「あ、マール…ディア王女」

「お、王女様…」

大臣が戸惑ったように声を出す。

「クロノは私を助けてくれたのよ、それなのになんで…」

「いい加減にしなさい!マールディア!!」

いきなり怒号が飛んだ。

ガルディア王の登場に裁判所内はしん、と静まり返っている。

「父上!聞いてください!」

マールが懇願する。

「私はお前に王女らしく城で大人しくしていて欲しいだけだ。国のルール…裁判所が決めたことには例え王女でも従わなくてはな…。後のことは私と大臣に任せておきなさい。マールディアも町でのことは忘れるのだな」

マールが首を振る。

「嫌!私だって…」

「さ、行くぞ!」

マールの言葉を無視して王は兵士に声をかける。

「うわ!」

「クロノーーー!」

マールはその場に崩れるように座り込んだ。

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