魔王様に捧げる20のお題

3.変貌
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痛い。苦しい。

身体がねじれていくのが分かる。

「…っ!姉上…!」

虚空に声が吸い込まれる。

気を失いそうになったその時、青くねじれていた空間が一気に開けた。

あまりの眩しさに目を細める。

さらさらと心地よい風が木々の間を通り抜けた。

「…ここ…は?あ、姉上…。サラ…ッ」

掠れた声で姉の名前を呼ぶが、返事は無い。

…いや、僕の求めていた声じゃないしわがれた声が響いた。

「な、ななな、なんじゃお前は?どこから沸いてきおった?」

僕は初めてその存在に気付き、ゆっくりと声のするほうを見た。

緑色の身体。つり上がった目、尖った耳としっぽ…。

驚きで目を白黒させているソレを見て僕は思ったことをそのまま呟いた。

「…醜い…」

すると、その怪物はギリギリと目の端をつり上げた。

「何だと!魔族の主に向かって失礼な…!」

…主?コイツが?

強がっていても、僕には分かる。

コイツは、僕より弱い。

でも、何で…?

「やっちまえ!」

怪物が叫ぶと森の茂みの中から三匹のこれもまた醜い怪物が現われた。

そいつらを見た途端。いや、そいつらが僕を攻撃しようと僕を見た途端。何かが僕の中ではじけとんだ。

溢れ出る魔力。

僕が、もう使えなくなってしまったと思っていた魔力が僕の身体を駆け巡った。

その流れに身を任せて踊るような所作で僕は僕の前に立ちはだかったモノ達を薙ぎ払った。

緑の怪物がおののいたように僕を見ている。

―コイツも僕の邪魔をするのか?

僕の中で眠っていた魔力が目覚めると共に今まで封じ込めていた何かも同時に目覚めてしまった。

憎悪、哀しみ、怒り。

押し込めて、封じ込めていた感情が堰を切ったように溢れ出す。

姉上と僕を自分の子供として見なくなってしまった母様が…母様の中に巣くったモノが、憎い。

母様を変えた…『ラヴォス』と言う存在が、憎い。

『ラヴォス』を倒せば昔の母様と姉上の人生を取り戻せる。

そのためなら、何を失ってもかまうものか。

幼き少年はそう心に誓った。

…そう、サラがジャキを守ると誓ったように。

僕の手の中に魔力が集中していく。

それを見た緑色の怪物があたふたと前に飛び出た。

「おおお、お待ち下さい!我等の神!仏!王!…魔王様!」

両手を地面につけ僕の前に這いつくばったその姿を見て僕は手の中で渦巻いていた魔力を消滅させた。

ホッと安堵の息をついた怪物が僕を尊敬の眼差しで僕を見つめている。

「魔王…?」

聞きなれない単語を聞いて反復する。

「さようです。わしよりも魔力の強い者など見たことがありませぬ!だから貴方は主を越えた王であり、即ち魔王様なのです!」

目をキラキラさせている怪物を見て僕は悟った。

…コイツ、バカだ。

でも、まあコイツはこの世界で主だったようだし、一応力と権力を持っているんだろう。…僕の役に立つこともあるかもしれない。

「僕を…魔王と言ったな」

「はい。もしも貴方が我等魔族のためにそのお力を振るっていただけるのならば、我等は貴方に従い、貴方の意のままに動きましょう」

僕にへつらうその姿を見て僕はコイツに力を貸す…コイツを利用する事にした。

コイツの言っている『我等』の数がどれほどかは知らないが自由に使える軍勢は持っておいて損は無い。

「…分かった。力を貸す。お前、名前は?」

「わし、いえ私はビネガーと申します。…我が館には外法剣士ソイソー、空魔導士マヨネーという私に次ぐ魔力を持った者が住んでおります。…貴方を我が館にお迎えしても?」

「ああ、かまわない。早く僕を連れて行け」

僕はビネガーに命令し、その後についていった。

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