魔王様に捧げる20のお題

2.別れ
1/5ページ目

「ねぇ、アルファド」

僕は紫の毛並みをした猫をそっと撫でた。

にゃお、と可愛らしい声をあげるアルファドを見ると心が安らぐ。

アルファドに餌をやりながらそっと語りかける。

「姉上、最近忙しいみたいなんだ…。ちっとも遊んでくれないし…。母様、違う。女王の手伝い始めてからやつれてて…」

そこで言葉を止めた。

言葉にしたら本当にそうなるような気がしたから…。

…このままじゃ姉上まで母様みたいになってしまうかもしれない。

変わらないと約束してくれた、でも。

どんどん姉上が僕から離れてく気がするんだ。

「考えすぎかな」

ふぅ、とため息をついた時、扉が叩かれた。

「誰……?」

滅多にこのお休みの間に来る人なんかいないのに。

そっと扉を押し、細く扉を開ける。

そこに立っていた人影を見た途端、僕は安堵の笑みを浮かべた。

「ボッシュ!!何の用?」

「ちと、声が大きいの。もう少し小さな声で喋ってくれるか?」

ボッシュが自分の口に人差し指を当てる。

「あ、うん。ゴメンね。さぁ入って」

「サラはいるか…?」

「姉上?姉上なら女王と海底神殿の建設現場に」

「そうか…なら良い。今日はお前に用があるのじゃ」

「僕?珍しいね。何?」

何だろう、と首を傾げるとボッシュは身を乗り出して僕の眼を覗き込んだ。

「な、どうしたの?」

一瞬目を細め後、ボッシュは首を降り、僕がすすめた椅子に腰掛けた。

「お前、魔力はどうしたのじゃ?」

「ま…りょく?」

怪訝な顔をする僕にボッシュが詰め寄った。

「そうじゃ。お前は強大な魔力を持っていた。サラやジール女王に勝るとも劣らないほどのな。…だが今はその片鱗すら見えん。…何故だ?」

考えようとしたその時、左胸が痛んだ。

心臓が疼く。

…まだ…まだ早い…。

小さな囁きが響く。

「ジャキ?どうした?」

床に膝をついた僕の腕をボッシュが掴む。

徐々に痛みが収まってきた。

肩で息をしながらボッシュの腕を頼りに立ち上がる。

「わかんないよ。僕には…力なんてない…」

「そんな筈は…お前には力があった。その力が有りさえすれば女王を止められるやもしれぬのに…」

その言葉に僕は身を乗り出した。

僕には力がないんだと思ってた。

ずっと姉上の役に立ちたい…違う、昔みたいに姉上に笑ってて欲しいって思ってた。

そのために女王…母様を喰らっているラヴォスを倒したいって…。

「本当に?」

ボッシュは深く頷いた。

「そうじゃ。もうすぐ海底神殿が完成する。わし等の魔力じゃ女王に太刀打ちできんがお前の魔力があれば…」

「ボッシュ!!」

突如危機迫った声が響き、僕は驚いて後ろを向いた。

ボッシュはしまった、と言うように顔を歪めた。

サラが壁にもたれ掛かるようにして立っていた。

その目は鋭くボッシュを見つめている。

「ジャキの魔力は消えたのよ…」

姉上が視線を床に落とした。

その様子を見て、僕は直感した。

嘘だ…。

姉上は嘘をついてる…。

僕には分かる。

どうして?

「消えた?そんな筈はない。魔力は天性の物…」

「お帰り下さい」

サラが儚げに、それでいて凛とした声で言い放った。

「サラ…!わしは…」

なおも食い下がろうとするボッシュにサラは悲しげに目を伏せた。

「お願いです…。私を混乱させないで…いえ、この子を巻き込まないで…」

懇願したサラにボッシュが諦めたように呟く。

「サラ…。何故だ?お前程の者なら女王に逆らう事も可能じゃろうて…」

「…」

ボッシュが部屋を後にする。

ふらり、とよろめいた姉上に僕は駆け寄った。

「いつもより顔色が悪いよ。女王に何かされたの…?」

「そんなことないわ…」

しかし、サラは倒れ込むように寝台に横になった。

姉上の荒い息遣いだけが響く。

僕は沈黙が嫌でつい、声をかけてしまった。

「さっきボッシュが言ってた事なんだけど…僕には魔力があって、それが戻れば女王を止められるって…だから」

サラの体がびくり、と震えた。

「どうやったら」

「ジャキ」

姉上が僕の口にそっと手の平をあてた。

「力を欲してはいけないわ。母様のように力に捕われてしまう。私は貴方にそんな風になってほしくないの…分かって?」
「でも…僕は姉上の力になりたいんだ」

姉上が一瞬困ったような顔をして、その後フッと笑った。

「私は大丈夫。自分で何とかできるわ。貴方は母様に関わってはいけない。…さ、今日はもう休みましょう…」

寝台にまた横になった姉上はすぐに寝息をたて始めた。

「僕は、姉上に笑ってて欲しいだけなのに…」

真ん丸くて大きな月が窓の外からその様子をじっと見つめていた。

[指定ページを開く]

次n→ 

<<重要なお知らせ>>

@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
@peps!・Chip!!は、2024年5月末をもってサービスを終了させていただきます。
詳しくは
@peps!サービス終了のお知らせ
Chip!!サービス終了のお知らせ
をご確認ください。




w友達に教えるw
[ホムペ作成][新着記事]
[編集]

無料ホームページ作成は@peps!
無料ホムペ素材も超充実ァ