1/5ページ目 「ねぇ、アルファド」 僕は紫の毛並みをした猫をそっと撫でた。 にゃお、と可愛らしい声をあげるアルファドを見ると心が安らぐ。 アルファドに餌をやりながらそっと語りかける。 「姉上、最近忙しいみたいなんだ…。ちっとも遊んでくれないし…。母様、違う。女王の手伝い始めてからやつれてて…」 そこで言葉を止めた。 言葉にしたら本当にそうなるような気がしたから…。 …このままじゃ姉上まで母様みたいになってしまうかもしれない。 変わらないと約束してくれた、でも。 どんどん姉上が僕から離れてく気がするんだ。 「考えすぎかな」 ふぅ、とため息をついた時、扉が叩かれた。 「誰……?」 滅多にこのお休みの間に来る人なんかいないのに。 そっと扉を押し、細く扉を開ける。 そこに立っていた人影を見た途端、僕は安堵の笑みを浮かべた。 「ボッシュ!!何の用?」 「ちと、声が大きいの。もう少し小さな声で喋ってくれるか?」 ボッシュが自分の口に人差し指を当てる。 「あ、うん。ゴメンね。さぁ入って」 「サラはいるか…?」 「姉上?姉上なら女王と海底神殿の建設現場に」 「そうか…なら良い。今日はお前に用があるのじゃ」 「僕?珍しいね。何?」 何だろう、と首を傾げるとボッシュは身を乗り出して僕の眼を覗き込んだ。 「な、どうしたの?」 一瞬目を細め後、ボッシュは首を降り、僕がすすめた椅子に腰掛けた。 「お前、魔力はどうしたのじゃ?」 「ま…りょく?」 怪訝な顔をする僕にボッシュが詰め寄った。 「そうじゃ。お前は強大な魔力を持っていた。サラやジール女王に勝るとも劣らないほどのな。…だが今はその片鱗すら見えん。…何故だ?」 考えようとしたその時、左胸が痛んだ。 心臓が疼く。 …まだ…まだ早い…。 小さな囁きが響く。 「ジャキ?どうした?」 床に膝をついた僕の腕をボッシュが掴む。 徐々に痛みが収まってきた。 肩で息をしながらボッシュの腕を頼りに立ち上がる。 「わかんないよ。僕には…力なんてない…」 「そんな筈は…お前には力があった。その力が有りさえすれば女王を止められるやもしれぬのに…」 その言葉に僕は身を乗り出した。 僕には力がないんだと思ってた。 ずっと姉上の役に立ちたい…違う、昔みたいに姉上に笑ってて欲しいって思ってた。 そのために女王…母様を喰らっているラヴォスを倒したいって…。 「本当に?」 ボッシュは深く頷いた。 「そうじゃ。もうすぐ海底神殿が完成する。わし等の魔力じゃ女王に太刀打ちできんがお前の魔力があれば…」 「ボッシュ!!」 突如危機迫った声が響き、僕は驚いて後ろを向いた。 ボッシュはしまった、と言うように顔を歪めた。 サラが壁にもたれ掛かるようにして立っていた。 その目は鋭くボッシュを見つめている。 「ジャキの魔力は消えたのよ…」 姉上が視線を床に落とした。 その様子を見て、僕は直感した。 嘘だ…。 姉上は嘘をついてる…。 僕には分かる。 どうして? 「消えた?そんな筈はない。魔力は天性の物…」 「お帰り下さい」 サラが儚げに、それでいて凛とした声で言い放った。 「サラ…!わしは…」 なおも食い下がろうとするボッシュにサラは悲しげに目を伏せた。 「お願いです…。私を混乱させないで…いえ、この子を巻き込まないで…」 懇願したサラにボッシュが諦めたように呟く。 「サラ…。何故だ?お前程の者なら女王に逆らう事も可能じゃろうて…」 「…」 ボッシュが部屋を後にする。 ふらり、とよろめいた姉上に僕は駆け寄った。 「いつもより顔色が悪いよ。女王に何かされたの…?」 「そんなことないわ…」 しかし、サラは倒れ込むように寝台に横になった。 姉上の荒い息遣いだけが響く。 僕は沈黙が嫌でつい、声をかけてしまった。 「さっきボッシュが言ってた事なんだけど…僕には魔力があって、それが戻れば女王を止められるって…だから」 サラの体がびくり、と震えた。 「どうやったら」 「ジャキ」 姉上が僕の口にそっと手の平をあてた。 「力を欲してはいけないわ。母様のように力に捕われてしまう。私は貴方にそんな風になってほしくないの…分かって?」 「でも…僕は姉上の力になりたいんだ」 姉上が一瞬困ったような顔をして、その後フッと笑った。 「私は大丈夫。自分で何とかできるわ。貴方は母様に関わってはいけない。…さ、今日はもう休みましょう…」 寝台にまた横になった姉上はすぐに寝息をたて始めた。 「僕は、姉上に笑ってて欲しいだけなのに…」 真ん丸くて大きな月が窓の外からその様子をじっと見つめていた。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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