1/3ページ目 「…予言者。じゃと?」 冷たく、威圧的な視線が迷うかの様に揺らいだ。 「はい…。ジール王国の過去も未来も、全てを見通す事ができます」 「それは真か…?」 疑わしげにジールが俺を見た。 「貴様、偽りを言えばただでは済まないぞ!」 …ダルトンと言ったか? 確か、女王の側近。 祭事等の取り決めも任されていた。 「偽り等、申しておりませんが」 「未来を見通す?そんな事出来るわけ…」 「まあ、良い」 ジールがひらひらと手を振った。 「城への滞在を許可しよう。部屋を用意させる。…功績次第で位を与えてやってもいい。…わらわの為に尽力するのだな」 「…有難うございます」 俺は立ち上がり、女王の間を後にした。 …ラヴォスに近付く機会は、海底神殿完成の時しかないだろう。 その為にはジールの信頼を得る事が一番手早い。 俺は、奴を母親だとは思わない。 人の躯を持った…悪魔だ。 殺す事に躊躇いは…無い。 女王の間を出て、用意させられた部屋へ戻ろうとしていた時。 「アルファド!どうしたの?」 声が耳に届いた途端、無意識に身体が硬直した。 足に、柔らかい物が纏わり付く。 足音が俺の後ろで止まった。 「…誰?」 ゆっくりと振り返る。 立っていたのは、自分だった。 ジャキと呼ばれていた頃の。 「聞いてる?」 俺は、淡々と答えた。 「私は予言者だ」 「予言者?名前は無いの?」 名前。 …考えた事など無かったな。 魔王と呼ばれていたあの時代も、予言者と名乗っている今も。 必要すら、無い。 今の俺は魔王であり、偽りの予言者なのだから。 「名前は…無い」 ジャキは一瞬考え込む様に目を伏せた。 「珍しいね。……予言者って事は…女王の手伝い?」 ジャキの目が鋭くなる。 だが、目の奥にはジールとラヴォスに対する恐怖が垣間見える。 「…ああ」 「…そうなんだ。やっぱりラヴォスに関係あるの?」 「まぁ、そのような物だ」 ついつい幼き自分を凝視してしまう。 …これ程までに、無垢だったのか。 あの頃の自分は。 「…何、見てるの?」 「いや…」 大袈裟に目を逸らす。 先程から足元にじゃれついていたアルファドを持ち上げる。 「うにゃあっ」 手足をばたつかせ、嬉しそうに見えた。 ジャキが頬を膨らませる。 「…なんでアルファドが懐いてるの?」 「…」 黙ってアルファドをジャキに渡す。 「何故、だろうな…」 フ、と笑みを浮かべる。 笑顔が引き攣る。 まるで笑い方を忘れたように。 …最後に自然に笑ったのは、遠い昔だ。 ふと、ある人の事が気になった。 「…サラは、海底神殿を手伝っている…のだろう?」 ジャキについ、声をかけてしまった。 ジャキが振り返る。 「なんで知ってるの?…まあ、みんな知ってるけどね。それとも予言の力?」 「そのような物だ」 ジャキがじっと俺の目を見つめた。 何かを探るような目。 「…ふぅん。じゃあ母様の未来を視てよ」 唐突に投げ掛けられた質問に戸惑いつつ理由を尋ねる。 「…それを知って、どうしたい」 「別に…ただあいつの行く末を知りたかっただけ」 答えるつもりは無かった。 しかし、吐き捨てるように言うジャキに、つい、言葉が漏れた。 「…狂ってゆくだけだ」 刃の一瞬の煌めきのような、細く、鋭利な声。 「え?何?」 …あまりに小さな声だったので聞き取れなかったようだ。 俺は我に返り、解らない、と言い直した。 ジャキは納得していないようだったが、俺はローブをはためかせ、幼き自分に背を向けた。 …前を見据えた俺の前に、サラの姿はあった。 余りにも唐突に、余りにも自然に。 そこに存在していた。 身体が震えた。 此処に来た時から、何時かは会うと思っていた。 会いたい。この思いを自分でも解らない程に封じ込めていたのに。 今、目の前に、居る。 「姉上っ!」 ジャキがサラの元に駆け寄った。 「あら、ジャキ。…そちらの方は…?」 視線が交わりそうになり、フードを深く被る。 「えっと…『予言者』だって。未来を視れるんだって」 「まあ、未来を?そんな事が?」 驚いたようにその双眸が見開かれた。 自分の真紅の瞳を、一瞬だけ、捨てたいと思った。 尖った耳を隠したいと。 何故だ? 「予言者…さん?と、お呼びすれば?」 「…ああ」 「何時から此処に?」 「暫く前に」 「宮殿内でもフードをお取りにならないのですか?」 「…癖だ」 話していて…今なら解る。 サラの魔力は、絶大だ。 俺と同じ?それ以上? 俺より小さいという事は無い。 まさか、魔族の力を得た所為で俺は力を失ったか? そうではないと、祈りたい。 それとも、ただサラの魔力が大きすぎるだけか…? その時、アルファドが急に駆け出した。 「アルファド!?」 ジャキが後を追いかける。 二人の間を沈黙が流れる。 …不意に、サラがよろけた。 無意識の内に手を伸ばし、身体を支える。 「ごめんなさい…少し具合が悪くて」 「…顔色が良くない。暫く休めばどうなんだ?」 サラは静かに頭を振った。 「休む訳にはいきません。私は……」 サラはぐっと言葉を飲み込んで、フラリと立ち上がる。 「……貴女程の力が有れば…変える事も、可能だと言うのに」 そう呟くと、サラは儚げに微笑んだ。 「それでも、私は……ごめんなさい」 何故、サラは一歩を踏み出さないのだろう。 …サラが、やらないと言うのなら。 「…やらないと言うのなら、俺は無理強いしない。…俺がやる」 最後の言葉は吹き抜けた風に掻き消された。 「え…?」 サラが聞き返してきたが、俺はサラに背を向け、その場を去った。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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